生活道路での事故対策
タウンクリエイター代表  松村 みち子

 7,000人を切った交通事故死者数
  昨年(2005年)1年間の交通事故による死者数(事故後24時間以内)は6,871人だった。交通事故死者数が7,000人を下回ったのは、1956 年(昭和31年)以来49年ぶり。事故発生件数、負傷者数とも前年より減少、というおまけ付きである。
 小泉純一郎首相が「交通事故死者数半減達成に関する内閣総理大臣(中央交通安全対策会議会長)の談話」を発表したのが2003年(平成15年)1月のこと。その前年(2002年)の死者数は8,326人で、死者数が最多だった1970年(昭和45年)の1万6,765人の半分にまで減少したところであった。それをさらに10年間で半減させよう、という決意を2003年初頭の先の談話で述べたのである。小泉首相はその翌年(2004年)の第159回国会における施政方針演説で、道路 交通において日本を世界一安全な国にするために、年間の交通事故死者数を5,000人以下にするとの目標を掲げた。
 その成果は早くも表われ、2003年の交通事故死者数は7,702人と、前年比で大きく減少した。1957年(昭和32年)以来46年ぶりに死者数が7,000人台まで減少したことも注目を浴びた。改正道路交通法が2002年6月に施行され、飲酒運転に対する罰則が強化されたことも一因だと思われる。
 死者数は2000年(平成12年)から5年連続順調に減ってきているが、交通事故発生件数と負傷者数は増加傾向であった。昨年は10月末あたりから、いずれも前年より減少していることが話題となり、年末に近づくにつれ死者数が6,000人台になるのではという期待が高まった。1月2日に警察庁がまとめた結果が、冒頭の数字である。ついでながら交通事故発生件数は93万3,546件で前年より1.9%減、負傷者数は115万5,623人で前年より2.2%減であった。

 死傷者の減少が次の目標
 交通事故死者数・負傷者数、事故発生件数とも減少したのは、さまざまな場面で官民が連携しながら地道に交通安全に取り組んできた成果ではないかと思う。さらなる目標は事故全体を減らし、加えて死傷者数を減らすことだろう。
 政府が目標として掲げている死者数5,000人は事故後24時間以内の死者数のことである。欧米では事故後30日以内に死亡した者の数を交通事故の死者数にしており、24時間死者の統計だけでは国際比較ができない。そのことから警察庁では1993年(平成5年)より「24時間以内死者」に、交通事故発生から24時間経過後30日以内に死亡した者を加えた「30日以内死者」の集計をするようになった。
 2005年の「30日以内死者」数は原稿執筆時点ではまだ出ていないため、2004年のデータから交通事故の状況を見てみよう。「24時間以内死者」数は7,358人で、「30日以内死者」数は8,492人であった。厚生統計(厚生労働省統計資料「人口動態統計」による死亡原因が交通事故の死者数)の「1年以内死者」は1万645人であった。また、死傷者数は約118万3,000人おり、うち1カ月以上の治療が必要な重傷者は7万2,777人で軽傷者は約111万人であった。さらに交通事故で療養中の者が約7万1,000人で、常時介護を要する者は約2,000人、という数字が出ている。
 一方、2004年の交通事故発生件数は約95万2,000件で、過去最悪の数字であった。事故が発生しなければ死傷者は出ないわけだから、事故を減らすことが死者半減につながる。
 そのためには何をすればいいのだろうか。課題を整理してみよう。
 第1は高齢者の事故を減らすことである。人口あたりの死者数でみると、高齢者は若者の1.7倍と非常に高い。本格的な高齢社会が到来することを考慮すると、高齢者の事故を減らさない限り、事故死者の絶対数は減らない。
 第2は夜間事故を減らすことである。夜間の事故では、発生割合に比べ死亡事故の割合が約2倍も多い。
 第3は自転車事故を減らすことである。自転車が絡む事故は約19万件あり、特に出合い頭事故の約4割を自転車が占めている。
 第4は生活道路における事故を減らすことである。死亡事故は国道、市町村道、その他の道路でそれぞれ3割前後と、ほぼ同じ割合で発生している。それに対し人身事故のほうは市町村道、すなわち生活道路で半数近く発生している。生活道路における事故対策が事故死者半減のカギと言える。

 生活道路の対策のポイント
 2001年(平成13年)作成の「第7次交通安全基本計画」では、道路交通環境の整備に関し、「道路の新設・改築による交通安全対策の推進」「交通安全施設等整備事業の推進」「コミュニティ・ゾーンの形成」などについて触れている。
 生活道路の整備に関するポイントをまとめると以下のようになる。
(1)道路ネットワークの整備により、居住地域内から通過交通を排除する。
  例えば、高規格幹線道路から居住地域内道路に至る安全な道路交通網を体系的に整備したり、バイパスや環状道路を整備して、交通を効果的に分散させることである。
(2)自転車・歩行者専用道路などの整備で安全な道路環境をつくる。
  自転車の通行を歩行者や車両と分離するための自転車道を設置するなど、自転車、歩行者、自動車などの異種交通を分離することである。
(3)生活環境を向上させるため、交通安全施設の整備を総合的に実施し、安全な通行を確保する。
  区画道路においてコミュニティ道路を整備したり、歩道の設置が困難な場合、ハンプや狭さくなどの組み合わせにより、車の速度を抑制することである。
(4)歩行空間のバリアフリー化を進める。
  高齢者や身体障害者などの自立した日常生活や社会生活を確保するために、歩道の平坦性を確保したり、安心して歩ける快適な歩行空間を積極的につくることである。

 地区住民と一体となった
 取り組み  生活道路における事故対策では、地区住民と一体となって取り組むことが望ましい。最近では警察庁も国土交通省も、施策の中に「市民(住民)参加」を盛り込むようになってきている。たとえば警察庁では交通安全活動に住民や道路利用者が主体的に「ヒヤリ地図」を作成することを推奨している。(ちなみに「ヒヤリ地図」は、鈴木春男・元千葉大学教授をリーダーとする国際交通安全学会の研究グループが開発したもので、筆者も開発メンバーの一人である。道路利用者がヒヤリとした個所を地図上に記すもので、警察の事故データだけでは分からない潜在的な危険個所を把握するのに役立つ。)
 さて、ひと口に「市民参加」と言っても、現実的にはどの段階から参加したら効果的なのだろうか。筆者は「ヒヤリ体験の収集」「ヒヤリ・危険個所の把握」「対策候補個所の選定」「対策立案・決定」「対策の実施」「対策効果の把握・評価」のどの段階でも市民が参加、あるいは市民との情報の共有ができる仕組みがほしいと考えている。なぜならば道路の危険個所は、そこを利用する市民が一番よく知っているからである。そして道路管理者(国・県・市)や交通管理者(警察)と情報を共有することで、より効果的な対策を立案することができるからである。
 千葉県鎌ケ谷市では、1999年から「市民参加型交通安全対策」の取り組みをしているが、限られた予算の中でどこを対策個所として選ぶのか、どのような対策を講ずるのかについても当該地区の住民が参加し、大きな成果を挙げている。

 
  昨年は49年ぶりに交通事故死者が7,000人を下回った。次の目標は、死傷者を減少させることであり、そのカギは生活道路の事故対策である。生活道路では地区住民と一体となった取り組みが必要である。